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ドローイング 前略、手塚先生。21世紀に間に合いました。
[鬼子母神日記]
●巻頭連載[第53回]
「我らの時代の墓碑銘を描く画家――その淫蕩する光線」
「恐怖を紛らわすドローイング」
佐藤ブライアン勝彦●作品&文
●2013年12月26日~1月2日に、肺炎で2週間程入院した時に書いたドローイング。この時、医者より「間質性肺炎」かも? と言われ、もしや俺は死ぬのか? と恐怖に駆られ、気を紛らわす為にノートに書いていたもの。
今日も午後の休憩時間は絵を描いていた。
新鮮な空気でも吸おうと外へ出ると、俺の視線の先10メートル位か? イイ感じに酔った千鳥足の爺さんが歩いていた。
酒の臭いが風に流され俺の鼻につく程だ。
たぶん朝か? 昼からだいぶ呑んだんだろうな~。
しばらく眺めていると「おっとっと」ってな感じで、遊歩道脇の花壇に頭から突っ込んでいった。
何とか立ち上がり、体勢を立て直そうとするものの、膝に力が入らず今度は花壇のレンガに尻餅をついた。半ケツで。
それを後ろから動画で撮っていた俺もどうかと思うんだけど、声をかけなかったのには理由があって、突っ込んだ花壇は整形外科の壁沿いのもの。
ちなみにその建物の隣は薬局と内科があり、向かいは透析専門の病院。
頭から血でも流してたら肩を貸して病院へ連れて行こうと思ったけど、どうやら怪我もなさそうだった。
ここは平和だな~。とほっこりし、また、アトリエに戻って、また絵を描いている。
4月18日(木)鬼子母神は晴れ。
先日、ザ・シェルヴィスのメンバー、制作のヤマシタが鬼子母神へやってきた。
彼女とは5年来のつきあいだが、これまではメールと電話のやり取りだけで、会うのは初めてのことだ。
子どもが東京の大学に入学したので、それにつきそい上京し、ついでに遊びにやってきたというわけだ。
ヤマシタとは約束があった。ここにも書いたが、会ったら「うなぎ」を奢るという約束だ。
しかし、金を用意することは出来なかった。結局のところ、やはり彼女に奢ってもらうことになった。
それはまあしょうがないとはいえ(?)、しかし今の私には数時間であれ、ひとりで彼女の相手をする体力がない。歩くどころか、電話で話をするのさえ息切れがして辛いのだから。
そこで、友人のXに付き合ってもらうことにした。ヤマシタはよく手料理を送ってくれるが、Xもその手料理でなんどか酒を呑んだことがあった。
昼少しまえ、副都心線雑司ヶ谷駅で待ち合わせをし、まず3人で雑司ヶ谷墓地へと歩く。
文学好きのヤマシタが作家の墓を見たいというからだ。
(卒論は太宰治だったという)
永井荷風、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、泉鏡花とめぐり、雑司ヶ谷墓地のスーパースター夏目漱石のダサイ墓の前へ。そして最後は竹久夢二で墓参りは終了。
みなコアなファンが今もいるから、そなえられた花がそれぞれ新鮮だった。
●新連載第3回
「ゴミ出しの日々」
兵庫 尊(ひょうごたかし)作
●ほぼ3年ぶりの連載再開。作者はご存知、隣室の漫画家・兵庫くん。今回の作品は5回連作の3回目。つまり大落ちは5回目となる。
やはりXにつきそってもらって良かった。たったそれだけ歩いただけでもヘトヘトで、しゃがみ込むどころか、路上に寝ころびたいほどだった。とてもヤマシタと気軽に言葉を交わすことなどできず、会話はほとんどXにまかせるしかなかったからだ。
ヤマシタは、実際に見る私の痩せっぷりにもびっくりしていたが、その足取りのモウロクぶりに衝撃を受けたようだ。このブログにはイベントや花見の写真がアップされているから、私がここまで病んでいるとは思わなかったという。
しかし白状すれば、それらの会場まではたいがいシギーに送り迎えしてもらっているか、タクシーを使っているのである。そして会場ではぐったりと椅子に座っているばかりだ。
そんな私であるから、遠い鰻屋まで移動するわけにはいかない。そこで向かったのが、墓地の脇にある鰻屋だ。法事や墓参りのあとに使われる老舗の鰻屋だが、露地にあるのでフリの客は入らないだろう。近所の人たちが使う店だと思う。
私は入ったことがない。だから不安だった。せっかく上京したヤマシタには旨い鰻をたべさせてやりたかった。
(地方の人が東京に来たならば、老舗の鰻と鮨と天ぷらと蕎麦だけを食べればいいと思う)
で、結果的に大正解だった。
店の奥はひろい座敷になっており、掘りごたつもある。12時半くらいだったが客はおそらく近所のお婆さんが2人だけ。鰻重を前に、お茶をのみのみおしゃべりをしている。
鰻重の上を頼み、呑みものはビールの中瓶を2本と2合徳利を1本。
(鰻重は並、上、特、特上とある。味ではなく鰻の大きさが違うわけだ)
それと「きも焼き」を2本頼んだのだが、1本しかないと接客係りのお婆さんがいう。じゃあ、1本でいいですとXが言った。
酒の突き出しに、切りコブとレンコン煮の2種盛りが出た。他に鰻重についてくるお新香の小鉢。このカブと胡瓜の糠漬けの盛りがいい。
それ以上に、きも焼きにはびっくりした。フランクフルト・ソーセージの1.5倍はあろうかという太さのものが出てきたのである。肝だけじゃなくヒレもぐるぐるに巻かれてある。2本じゃとてもとても喰い切れなかったろう。こいつ(500円)を串からほどき、山椒をふりかけ喰うとビールがすすむ。
山椒もまた緑鮮やかで香りも高い。
もちろん鰻重も旨かった。鰻も大きい。さっきまで搬送入院1歩手前の私が、2人より先にペロリと平らげたほどだ。きも吸いも上等である。
「うまいもんなら食えるんだよ」
3人ともひどく満足し、店は2時までなのだが2時半まで腰を落ち着け、べつに嫌味も言われなかった。
勘定もめっぽうリーズナブルである。酒共に1万4千円ほどか。
まあ、ヤマシタにぜんぶ払ってもらったわけだが。
●老けたなあ、喰い方&表情が老人だ。半年パジャマ姿の病人が無理やり服を着て外出してきた感じ。しかしこの後、鰻重をぺろり。
それからまた歩いて、「七曲りの路地」入口近くにあるコーヒー専門店「キアズマ」へ入る。
喫煙ができる2階は、めずらしくその時間でも客がおらず、私のお気に入りのソファに座ることができた。
私は今年初のアイス・コーヒーを、2人はコーヒー専門店なのにサクラン
ボ風味のアイス・ティーを頼んだ。
それとコーヒー・ゼリーを3つ。何度かこのブログに書いたから、ヤマシタは食べてみたくてしょうがなかったという。
「キアズマ」のアイス・コーヒーは、冷たいのに香りが高くめっぽう旨い。
そしてコーヒー・ゼリーもまた絶品だ。苦いゼリーにたっぷりのホイップ・クリームがかかっており、ヤマシタもXも感激したようだ。むろん、久し振りに口にする私もである。
「うまい鰻屋からキアズマかあ、完ぺきな流れだな。うまいもんなら食えるんだなあ」
「ピスケンて、やっぱり乞食王子だよ」
これは私を評するXの口癖である。
「ピスケンって乞食みたいに人様から恵んでもらって生きているくせに、本人は王子さま気分がぬけなくてさ、いいもの食っているし、ブランド服もらって着てるし、車で送り迎えさせるし、それが当然だと思ってるんだからさ」
「王子さまって、そんな生まれでも育ちでもないよ。俺はバスの運転手と車掌の息子で、スラム育ちだぞ」
ましてや、決して当然なんて思っちゃいない。
しかしまあ「スラム王子」って気分はぬけてないかな。なにせスラム団地の、2百人の小学生の頭目だったのだし。
「キアズマ」の勘定はXが払った。
[サード7インチ小説のジャケット]
●A面作品「PISS(INTO)MY HEROES」。
(「私」が21歳のとき、某新興宗教会の幹部より「うちの会の歌をつくってくれ」と頼まれる。どんな歌を頼まれたのか?)
●B面作品「七曲荘二〇三号室」。
(このブログに書けなかった隣室の男の話)
●値段は定価1,600円。限定500部。通信販売は4月後半を予定しています。
●諸事情により、シェルヴィス通販業務は4月18日まで休業いたします。
[サード発売記念イベント開催]
●5月12日(日)新大久保「ネイキット・ロフト」にて。
※詳しいことは次回のブログで。
その後、買い物をしてから3人で七曲荘へ。
部屋でカンパリ・ソーダを呑みながら駄弁る。
(私とXは「ゴードン・ジン」入り。ヘミングウェイ流である)
肴はヤマシタが持ってきた、高価なフランス製の蟹と海老の2瓶のパテ、彼女の自宅近くの牧場の大蒜入りフレッシュ・チーズ&バター。それらを切り分けたバケットに塗って味わった。
もうひとつ、私の好物のオリーブのアンチョビー漬け。みな素晴らしく旨い。
「どうだ、初めて七曲荘の部屋に入ってみて?」
「想像通りだよ、けっこう広く感じるし」
そりゃそうだ。テーブルと屑籠とダイヴ(小亀)の水槽しかないのだから。
ヤマシタは駄弁りながら、窓の外に置いていた2つのプランターのカチカチの土に水を入れ、割りばしでつついて柔らかくした。
そこへ、やはり持ってきた朝顔とひなげしの種を播いてくれた。
それから私へ米を炊くように命じたが、酔っぱらって立ち上がるのも研ぐのも面倒なので、「主婦なんだから、やりなれてるだろ」とヤマシタに炊いてもらう。
米を炊いてどうするかといえば、酒の〆に「ちらし寿司」をつくってくれるという。
炊いた2合のご飯に、娘の部屋でつくってきた寿司酢と具を混ぜるだけ。
しかし具材は、筍、蓮根、人参、もどし椎茸、きんし卵、きぬさや、もみ海苔と豪勢である。
私もXもおかわりをした。
はずだ――。
畳の上で(布団がかけられ)目覚めたときは2人ともおらず、テーブルの上がきれいに片づけられていた。
時計を見ると、もう午前3時。
喉が渇いたので、おおぶりのグラスの底にくし切りのレモンを落とし、その上から氷をたっぷり詰めて、ジン抜きのカンパリ・ソーダをつくった。
それから小鍋で、穴の空いた貝形のチーズ入りパスタを15分茹でた。
冷蔵庫に残っていた厚めのベーコンを短冊に切り、バターといっしょにキャンベル缶のミネストローネに入れ、そこへ茹でたショート・パスタを放り込み、すこし煮込む。
(キャンベルのスープはけっこう塩辛いので、パスタを茹でる塩加減はかなりおさえめに)
それに粉チーズとタバスコをふりかけて食べた。
パスタもキャンベル缶詰も、朝食用にヤマシタが買ってきてくれたものだ。
「おっ、こりゃ」
二日酔いなのにいける。
「やっぱり旨いもんなら食えるんだよなあ」
スープをすすりながら、つらつらと、小中高時代の食卓を思い出す。
サンマの味醂干し、サンマのつみれ汁、メザシ、くじらの味噌漬け焼き、くじらベーコン、マルシン・ハンバーグ、魚肉ソーセージ炒め、肉なしカレー、甘い甘い卵焼き、薄い薄いカルピス、肉屋のコロッケ&肉団子、煮干し入り味噌汁、ぐったりとした赤黒いカツオの刺身、茄子の味噌汁、茄子の煮物、茄子の炒め物――。
毎日毎日、茶色い食卓。
中原中也いうところの「茶色い戦争がありました」時代みたいだ。
そして上京してからは酒ばかりで、呑むと食べないから、まともなもんを食べていない。
そんな私であるが、人の手料理、人から奢ってもらった料理、人から恵んでもらった食材、みな旨く味わえるのは、やはり「王子」ではなく、根が「乞食」だからだろう。
ここ10年以上、私は「ありがとう」を言い続けてきたが、人から「ありがとう」と言われたことはない。
感謝することばかりで感謝されたことはない。
そんな男が王子なわけがない。
が、「ありがとう」を言える仲間に恵まれていることは、やはり「乞食王子」なのかもしれない。
カンパリ・ソーダ2杯で、ショート・パスタ入りスープひと皿を食べおえると、また眠くなってきた。よろめきながら布団を敷く。
まだ2種のパテ、フレッシュ・チーズ&バター、バケット、ショート・パスタ、スープ、ちらし寿司のあわせ酢と具材が残っている。
眼を上げると、陶器製の細長い一輪ざしが柱に吊られてあり、ヤマシタが道端で摘んだ紫色の野花が刺してあった。
おやすみなさい。
さすがに呑みすぎた。これから3日間、私は布団から起き上がれないだろう。
それでもいい。こんな食卓にありつける日もあるのだから。
ショート・パスタは、パガーニの「トルテリーニ・チーズ」ってやつ。あなたも朝食にいかがかな。ミネストローネじゃなくクラム・チャウダーもいいかもね。
よい夢を。
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(以上の場所は、ネットで調べてください)
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